フランス滞在中に怪我や病気をしてしまうと、とても不安になってしまうことと思います。
日本とフランスでは医療事情が異なるので、勝手がわからず、戸惑うこともあるでしょう。でもフランスの医療は日本同様に世界トップレベルですので、ご安心ください。
今回はフランスで病院にかかる際に知っておくと安心なポイントを紹介します。
出来る限り最新の正確な情報の記載に努めていますが、こちらの記事の内容はあくまでも参考としてください。詳細はご自身で直接医療機関に御確認いただけますようお願いします。
まずは一般医 Médecin Généralisteへ
大きな怪我や救急の場合をのぞき、フランスではまずMédecin Généraliste(一般医)の診察を受けます。一般医とは、総合医療を担い、日本でいう「かかりつけ医」と同じ役割のドクターたちです。
一般医は、軽い症状であれば眼科・耳鼻科・皮膚科などの治療も行います。
打ち身や捻挫などの診察も可能で、必要があればレントゲン検査の指示を出し、その結果を診ることもします。
一般医が診察し、より専門的な治療が必要と判断されると、眼科医・耳鼻科医・皮膚科医・整形外科医といった専門医への紹介状が発行され、専門医を受診することになります。
日本では患者自身が症状によってどの専門医を受診するかを自己判断して受診しますが、フランスでは一般医がまず診察を行い、医学的にどの専門医との診察が必要なのかを判断して、患者と専門医とをつなぐのです。
フランスの社会保険(l’Assurance Maladie)は、保険加入者それぞれが自分の都合にあう一般医をMédecin Traitant(かかりつけ医)として登録することを推奨しています。自分で一般医を選択し、l’Assurance Maladie に届け出をすると、登録ができます。最寄りの薬局(Pharmacie)でその地区のドクターのリストをもらえます。薬局は緑の十字マークが目印です。
後述しますが、一般医の診察でも、Médecin Traitantの診察とそうでないドクターの診察では、l’Assurance Maladieからの返金率が異なります。Médecin Traitantの診察の方が返金率は高くなります。専門医の診察においても、Médecin Traitantからの指示で受診する場合(紹介状がある場合)は、そうでない場合よりも返金率が高くなります。
緊急時
病院へ出向くことも出来ないほど緊急の場合は、電話で 15 をダイアルし、SAMU(Service d’Aide Médicale Urgente)に連絡します。SAMU のオペレータと話し、必要と判断されると、医師が乗った救急車が到着し、即座に治療行為が始められます。
フランスのSAMUは医師が現場にかけつけて即時に医療行為を始めるので、世界から注目されているシステムです。
SAMUを呼ぶほどではないが、一般医との予約を待ってはいられない程度の症状であれば、総合病院の救急外来に出向きます。救急外来は重症患者を優先して診察するので、比較的軽い症状の場合は待ち時間が長くなります。
sapeurs-pompiersとの違いは?
Pompierは翻訳すると消防士で、火災の際も出動しますが、それ以外の救出が必要な事態にも対応します。番号は 18 です。
SAMUとの違いは、医者(看護婦)が同乗しているか否かです。
ただ、その判断も緊急時には難しいですね。SAMUはそのような判断も含めて対応してくれますので、まずは 15 にかけるとおぼえておくと良いでしょう。
専門医を受診するには
先に、一般医を診察してから専門医へかかると述べましたが、直接専門医にかかることができないわけではありません。
ただ、当日予約なしで受付をして順番を待てば専門医に診てもらえる日本とは違い、フランスで専門医との診察を受けるには予約が必要です。そしてその予約は、2~3週間待ちということが多々あります。
特に眼科・皮膚科・産婦人科等は予約がとても取りづらく、かなり先の予約しか取れないのが常です。
このような状況なので、辛い症状を抱えたまま専門医との予約を数週間待つよりも、まずは一般医に診てもらうと安心です。また、一般医が早急に専門医との診察を受ける必要があると判断した場合には、急患として専門医に診てもらえることもあります。
医療費支払いについて
日本では、診察後、社会保険が負担する金額が差し引かれた金額を自己負担分の医療費として支払います。
フランスでは、一度全額自己負担した後、社会保険、ミュチュエル(後述)から返金されルシステムでしたが、最近はそうではない所も増えています。
いずれにせよ全てのドクターがカード払いを受け付けるわけではないので、受診時は小切手を用意しておくと安心です。
カルトヴィタルとカルトミュチュエルの用意
カルトヴィタルCarte Vitaleはフランス社会保険加入者証です。受診時は必ず持参しましょう。
カルトミュチュエルは任意で加入した共済や保険会社から発行されるもので、毎年更新されます。
持っている人はこのカードも持参します。これは医療機関受診時のみでなく、検査、処方箋で薬を購入する場合も同様です。
診察の後、ドクターへ支払いを済ませると、ドクターは患者のl’Assurance Maladieのカード(Carte de sécurité sociale)を機械で読み取り、情報をl’Assurance Maladieへ送信します。
もしもドクターが読み取る機械を持っていなかったり、患者がカードを忘れたりした場合には、la feuille de soinというピンク色の書類を渡されます。La feuille de soinに必要事項を記入し、自分の住む地区を管轄するl’Assurance Maladieに郵送すると、後日返金されます。
l’Assurance Maladieからの返金について
l’Assurance Maladieからの返金を理解するためには、まずフランスの医師はそれぞれの分野で3つのセクターに分けられていることを知る必要があります。
- Secteur I:法律で定められた医療費で診察する医師
- Le Contrat d’accès aux soins(詳細はここでは省略します)に同意した医師adhérant au contrat d’accèes aux soins
- Secteur II:経験を積み、医療費を自由に設定して良いと認められた医師
セクターによって、設定できる診療費が異なりますが、法律で定められた返金率は変わりません。
結果として、医師がどのセクターに所属するかによって、自己負担額が変わってきます。
<かかりつけ医との診察、かかりつけ医からの紹介による専門医との診察で返金される医療費>
医師がどのセクターに属するかは、l’Assurance Maladie のサイトから確認することができます。
セクターの違いに加え、受診する医師がかかりつけ医であるか否か、そして専門医の場合、かかりつけ医からの紹介があるか否か、によっても返金率が変わります。
<かかりつけ医ではない一般医との診察、かかりつけ医を通さない専門医との診察で返金される医療費>
かりつけ医との診察医療費は法律で定められた医療費の70パーセントが返金されますが、かかりつけ医でない診察医療費の返金は30パーセントに留まります。
専門医との診察に関しても、かかりつけ医からの紹介状があれば70パーセント、そうでなければ30パーセントが返金されます。
注意する必要があるのは、l’Assurance Maladieから返金されるのは、法律で定められた医療費の70パーセントあるいは30パーセントが返金されるということです。
例えば、自由に診療費を定めて良い一般医(Généraliste Secteur II)を受診し、50€を支払った場合、返金されるのは50€の70パーセントではありません。一般医の診察費として法律で定められた23€の70パーセントである16.10€から、毎回の診察の一律自己負担金1ユーロが差し引かれた15.10€が返金されます。残りは自己負担あるいは Mutuelと呼ばれる任意保険からの返金となります。
Mutuelとl’Assurance Maladieは提携しており、l’Assurance MaladieからMutuelに情報が行くので、改めてMutuelに返金請求手続きをしなくても、Mutuelから返金されることが多いです。
ただ、歯科治療や眼鏡作成などは、別途Mutuelに返金請求する必要がある場合があるので、ご自身の加入したMutuelに問い合わせるようにしてください。また、歯科治療や眼鏡作成は高額になることが多いので、治療を受ける前に費用の見積書を入手してMutuelといくら返金されるのかを確認すると安心です。
診察予約を取るには
一般的なのは、各ドクターへ電話をして電話で予約を取る方法です。ドクター自身が自分の予約を管理している場合もありますし、秘書を雇っている場合もあります。
電話で予約を取るのはハードルが高いという場合、オンライン予約ができます。
もしくは現在は、オンライン予約でしか受け付けていないドクターもいます。
上記のサイトでは、専門と地区からドクターを絞り、予約をとることができます。これらのサイトは、どのドクターに空きがあるのかがすぐに分かるので、一軒一軒電話する手間が省けるのも利点の一つです。
個人開業しているドクター達は普通のアパートの一室にCabinet(診療所)を構えていることが多いです。アパートの建物の入り口に、ドクターのネームプレートが出ています。普通のアパートなので、入り口にセキュリティコードがあることもあります。
Cabinetのドアには、 ‘Sonnez et rentrez’と貼り紙がしてあることがあります。この貼り紙がある時には、呼び鈴を鳴らして合図をしますが、誰かがドアを開けに来るわけではないので、自分でドアを開けて、待合室で順番が来るのを待ちます。
診察時、日本のドクターは看護師がアシスタントしますが、フランスでは、診察はドクター一人で行われます。特殊な場合をのぞいて、診療所には看護師はいません。
ドクターから検査を指示されたら
日本では、クリニックでそのまま血液検査やレントゲン検査を受けることができますが、フランスではドクターの指示書をもって別機関に改めて出向くことになります。指示書がなければ検査を受けることができません。いわゆる医薬検分業ということです。
血液検査や尿・便検査はLaboratoire d’analyse、レントゲンやエコグラフィー、MRIはRadiologie あるいはImagerie Médicaleと呼ばれる検査機関でそれぞれ受けることができます。
血液検査や尿検査は予約なしで受けられますが、エコグラフィーやレントゲン検査などは予約が必要です。
血液検査は検査前に飲食が禁止(être à jeun)であったり、尿検査は朝一番の尿でなければならなかったり、検査によって注意事項がありますので、ドクターあるいは検査機関に確認してください。また、朝一番の尿の採取や検便採取には、前日にLaboratoire d’analyseに出向いて専用キットを入手する必要があります。
レントゲンやエコグラフィー、MRIは検査が必要な体の部位によって必要になる機械も変わってくるので、自分できちんとどの部分のどの検査が必要なのかを理解して、それを伝えて予約を取りましょう。さらに、検査する内臓部位によって、検査前の注意事項も変わってきますので、ドクターに確認しましょう。
検査機関は Mutuelと提携していることが多いので、l’Assurance MaladieとMutuelで負担される費用を差し引いた額をその場で支払うことが多いです。カード払いも殆どの検査機関では可能です。
検査結果がいつ出るのかは、受ける検査によって違うので、その場で確認しましょう。今は結果を取りに再度出向かなくても、オンラインで検査結果を確認する方法を導入している検査機関も多くあります。
もしくは、検査結果が本人と担当医のもとに別々に郵送されてくることもあります。
薬の買い方
ドクターから処方された薬は、日本と同様に薬局(Pharmacie)で購入します。薬局も検査機関と同様に Mutuelと提携していますので、l’Assurance MaladieとMutuelで負担される費用を差し引いた額をその場で支払います。
l’Assurance MaladieとMutuelで担保されない薬が処方されることもありますが、その際には薬局での購入の際に教えてもらえます。
解熱剤や保湿剤など、ドクターの処方なしで購入できる薬もあります。ただこれらの薬は処方があれば、l’Assurance MaladieとMutuelで担保されるので、処方箋があると自己負担が軽くなります。
よって受診した際は、医師が処方箋を書く際に、自分が欲しい種類の薬も出してもらえないか聞いてみると良いでしょう(もちろん、不可とされることもあります)。
処方薬を購入する際にl’Assurance Maladieのカード(Carte de sécurité sociale)の持ち合わせがないと、一度全額を支払うことになります。その場合は、薬局でFeuille de soinを受け取り、l’Assurance Maladieに書類を送付して返金手続きをとります。
このあたりは、上述の診療の場合と同様です。
海外旅行保険を活用する
留学やワーキングホリデーで渡仏される方の多くは日本の保険会社の海外旅行保険に加入していることと思います。海外旅行保険のフリーダイヤルに連絡をして受診希望の相談をすると、保険で担保可能な疾病であれば診察や検査の手配、さらに言葉が不安なうちは、通訳手配してもらえることもあるようです。